時間通りに教会へ:新婚パーティの思い出

古書でJ.B.クック著『英国おいしい物語』(東京書籍)を見つけて、懐かしさで胸がいっぱいになった。著者は昔中目黒で「1066」(ノーマン・コンクェストですね)というレストランを開いていて、私たち夫婦はそこで新婚パーティを開いたのである。

バブル世代ではあるが、ただ派手というのは二人とも性に合わず、でもちょっとは派手にしたい私の希望で、イギリス料理のレストランで、ミュージカル『マイ・フェア・レディ』を下敷きにしたパーティを開くことにした。もうどんなだったか忘れてしまったが、手書きのデザインで印刷した招待状を送り、記念品には銀座の伊東屋で小道具風の小皿を用意した。このブログ「群衆の居場所」に何度か登場してもらった、私の食いしん坊の師匠は演劇通でもあるので、企画全般手伝ってもらった。

著者のクックさんも、腕を振るってフルコースのディナーをセットしてくださり、でっかい手づくりのウエディング・ケーキは、ちゃんと切り分けて皆さんに持って帰ってもらった。「料理美味しかったでしょう」と得意顔が忘れられない。

パーティでは、連れ合いと連れ合いの友だちたちが「踊り明かそう」を歌い、私が「時間通りに教会へ」を歌った。原作通りなら新郎新婦がイライザとヒギンズ教授になるのだが、私が好きなのはドゥーリトル親父の方なので(そして師匠はレックス・ハリスン贔屓なので)、そうしたのだ。でもそれ以上に、ほんとうに「時間通りに教会へ」の気持ちだった。もう遊んでばかりはいられないな、と。スタンリー・ハロウェイに扮するために、シルクハットは無理だが、縞ズボンを買った(映画はシルバー・グレーのズボンだったかな?)。今でもときどき卒業式に穿いていく。

おまけで「君住む街で」(若い頃のジェレミー・ブレッド!)を友人の1人と一緒に歌ったら、彼は歌詞を諳んじていて驚いた。このロマンチストの友人は近年結婚し、充実した新婚生活を送っている様子。

もう25年近く前の話で、「1066」は今はなく、クックさんは難民支援のNGOの理事長を務められているそうだ。「美味しかった」イギリス料理、わが家のレシピにはシェパーズ・パイにちょっと手を入れたポテトグラタンが残っている。

中筋 直哉 について

法政大学社会学部教授。1966年神戸市生まれ。

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