私の教科書『ベーシックは美味しい』

 バレンタインデーも過ぎたので、それに関連した話題を。専門分野を越えた、人生の教科書というべき書物が何冊かあるが、その1つが河田勝彦著『ベーシックは美味しい』(柴田書店)だ。地方暮らしが長くなって、なかなかよい洋菓子店に巡りあえず、神戸っ子の私は、もう自分で作るしかないと腹を決めたが、この本は最初は敷居が高すぎて、別の本を買って、少しずつ洋菓子を焼きはじめた。でも、すぐに欲が出て購入。最初は「ウィークエンド」を砂糖がけせずに焼いて楽しんだ。決め手となるタンプータンも、かなり簡略化して作るようになった。毎年バレンタインにはガトー・ショコラ・ド・ナンシーを焼いている。
 私にとってこの本が教科書なのは、できる菓子が深々と美味しいこともあるけれど、それ以上に工程に込められた知識と考察、取り組む姿勢に敬服するからだ。簡略化しようと配合をいじってみたり、楽をしようと工程を端折ってみたりする度に、その完成度に打ちのめされるし、あえて教えの通りにやってみると、その合理性に驚かされる。自分の学問も、いつかこのレベルの近くにまで高められるとよいと願う。
 それでいて、店が駅前商店街の一角にあったり、デパートの出店も全く飾り気がなかったり、新幹線の車販で売っていたりするのも、心惹かれる。

中筋 直哉 について

法政大学社会学部教授。1966年神戸市生まれ。
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