社会を田の字に分割する:社会学的方法の基礎

毎年M.ウェーバーの社会的行為の4類型を教えるときに、A:伝統(前近代社会)とB:近代社会、ア:日常時とイ:非日常時の2×2の分類表を作って、Aア=伝統的行為、Aイ=感情的行為、Bア=目的合理的行為、Bイ=価値合理的行為と割り振って説明している。こうすると4類型の対照性が際立つし、何よりこの類型が社会変動論のためにあることがはっきりする。集団の2類型や支配の3類型にもリンクできる。

こうした分類法を思いついたのは、遠い昔、前任校で初めて「社会学概論」を教えたときのことで、E.デュルケムの自殺の3類型を、やはりA:前近代社会(環節社会)とB(近代社会)、ア:安定状態とイ:不安定状態(集合沸騰)の2×2の分類表を作って、Aア=集団本位的自殺、Bア=個人本位的自殺、Bイ=アノミー的自殺と割り振って、ではAイの具体例は何でしょう。「すすめ一億、火の玉だ」ですかね、とかやっていた。この分類もアノミーと集合沸騰の相似性がはっきりするというメリットがある。

2本の論理的直交軸を組み合わせて「田の字」の分類表を作り、類型を立てて操作していくのは、20世紀の社会学の思考法の基礎の1つだ。学説史的には、いうまでもなくT.パーソンズの「型の変数」から「経済と社会」を経て「AGIL図式」に至る流れの応用といえるが、私のは、そのきわめて日本的な変奏である、吉田民人先生の教えによるところが大きい。吉田先生は講義でも修士論文の口述試験でも、何でも田の字に分類して、それを社会学的説明とされていた。

といっても、私は吉田門下でないばかりか、学部3年生のとき「社会学原論」の講義を一番前で居眠りしていただけである。実は、この夏休みに古い段ボール箱からそのときの講義ノートが出てきた。ワクワクして開いてみたが、すぐにガッカリ。全然分からずに取っているし、全面「つまらない」感じがにじみ出るようなノートだった。さらに、しょっちゅう居眠りして、字が乱れている。吉田ゼミ生だった連れ合いは、「そうかなあ、私は面白かったけど」というから、私の問題なのだろう。

でも、今になって考えると、私がつまらなく思ったのにも少しは分があるので、それは吉田先生の田の字には変動論が内装されていないのである。だからダイナミックな社会をスタティックに分類して終わってしまうのだ。私が今使っている分類のAB軸は、前近代/近代というより、C.レヴィ=ストロースの冷たい社会/熱い社会のアイデアを借用している。変動を抑止する社会と変動を強制する社会の対比だ。

吉田先生がご健在ならば、明日にでも訪ねていって話を聞いてもらうのだけれど、もうそれは叶わない。たとえ見当違いでも、あの「つまらなそうな」居眠り学生がここまで考えるようになったことを、きっと吉田先生はよしとしてくださるだろう、その上で、さらに吉田オリジナルの田の字を伝授してくださるだろう。

 

中筋 直哉 について

法政大学社会学部教授。1966年神戸市生まれ。
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