磯村英一のいた場所:『ベルリン廃墟大全』を読む

アイルランドの写真家キアラン・ファーへイの写真集『ベルリン廃墟大全』(青土社)は、写真以上に辛口のキャプションが面白くて、あっという間に読み進んでしまう好著である。スピルバーグ監督の『ブリッジ・オブ・スパイ』を見て以来、東ドイツという国が気になって仕方がない。そこにも手が届く本である。

しかし、あるページに目が貼り付いた。それは「ホーヘンリューヘン療養所」の項で、ドイツ赤十字の結核療養所として建てられたこの施設は、H.ヒムラーの親友の所長の下でナチスのスポーツ医学のセンターとなったが、それは表の顔で、裏の顔はナチスの幹部のモルヒネパーティの場所だったらしい。さらに最後は人体実験も行われたらしい。そこでナチスに接待され、休暇を過ごした人びとのなかに「東京市長代理」がいたというのである。

幻の東京オリンピック招致のために、当時まだ掛長だった磯村が留学とセットでベルリンに「市長代理」として派遣されたいきさつは、彼の『私の昭和史』(1985,中央法規出版)に詳しい。磯村は、面会したヒトラーの印象が温和であった一方、手が冷たかったことを回顧している。しかし、ヒトラーとどこで会い、ベルリンのどこに住んでいたか、書いていない。

真実は分からない。しかしこうした闇を匂わせるところが、磯村にしかない個性なのだろう。

中筋 直哉 について

法政大学社会学部教授。1966年神戸市生まれ。
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