美味しい店を見つけるよろこび:名古屋・泉の「ポルテッツォ」

美味しい店をいくつか知っているといっても、尾山台の「オー・ボン・ビュータン」も西浅草の「ストロバヤ」も、どれも学生時代の食いしん坊の師匠の受け売りで、自分で見つけた店はほとんどない。そのうえ名古屋から遠距離通勤かつ子育て中は、美食を楽しむ余裕は(も)全くなかった。だからいつも「〇〇の味をご家庭で」になってしまっていた。

新聞の地方版に市内で一番早く桜が咲く通りが紹介されていたので、近くに用事があったついでに歩いてみた。市営地下鉄桜通線高岳(たかおか、と読みます)駅近く、オオカンザクラとカンヒザクラが植えてあるのだが、まだ咲いていなかった(今は満開だそうです)。早々に切り上げて帰ろうとすると、イタリア料理店の看板が目についた。元来「花より団子」なうえ、こうしたときに妙な嗅覚が動き出す。「ここは旨そうだ」。私の「旨そう」は、味に加えて私の居心地に合っていることも含む。食事時ではなかったので、店名だけ覚えて、帰宅してからウェブで調べてみた。

驚いたことに、その店は前の自宅の近くのパスタ屋が移転したのだった。パスタ屋時代、まだ名古屋に引っ越したばかりの頃に家族で数回訪れたものの、外食しない家庭になってしまったために縁遠くなった。最近車でそばを通ったら無くなっていたので、「潰れたんだな」と思っていた。

数日後、子どもを連れてランチに出かけてみた。前菜のキッシュ風の菜花のオムレツを一口食べた子どもが思わず「美味しい」とつぶやく。「そりゃ、パパの作るへたれオムレツとはちがうよ」と私。霧島産イノシシのリエットもレンコダイ(小さな切り身なのでタイノエはいない)のエスカベッシュも、あっという間に平らげた。プリモは生海苔(これは浜名湖の春の味覚)と干鱈のリゾット、セコンドはエゾジカのハンバーグで(ジビエを看板にしている)、どれも無理のない、整った味と盛りつけだ。ここを誉めてはいけないのかもしれないが、デザートが非常に個性的で、子どもの栗とリンゴのケーキも、私の凍らせたクレマ・カタラーナも、それだけで食べにきたいくらいの面白さだった。

食後にオーナーシェフがテーブルに挨拶に見え、移転の経緯をうかがった。もらったカードにはこの道に入って30年目で新規出店したと書いてある。ああ、同じ世代、同じ思いだなと思う。

名古屋市東区泉二丁目の「ポルテッツォ」というお店です。名駅からでも30分もかかりません。お勧めします。

中筋 直哉 について

法政大学社会学部教授。1966年神戸市生まれ。
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