名古屋メシお菓子篇:鍋屋町通りの「ボンボン」

14年前に名古屋に越してきたとき、不動産屋さんは「ここはお菓子屋さんが多いのでいいですよ」と勧めた。たしかに近くに複数の洋菓子店があり、さっそく試してみたが、どこも私の好きな味ではなかった。甘さの効きが「甘い」のだ。お菓子ははっきりくっきり甘くしてほしい。実はこれは名古屋のお菓子全般に言えることなのではないか。銘菓「二人静」で有名な老舗和菓子店の味も、私には甘さが「甘い」。

そんなことを親しくなった高齢の名古屋ネイティブに愚痴ったら、「私らはずっと『ボンボン』だがね」と即レスされた。「ボンボン」は、先日推薦した「ポルテッツォ」にも近い鍋屋町通りの西詰にある。入ったことはまだないが大きな喫茶室も備えた、昭和の匂いの香しい老舗でである。創業は昭和24年というから、名古屋の洋菓子店では最年長ではないか。ちなみに鍋屋町通りは、創業慶長年間(!)の茶釜屋さんやら、創業弘化年間の和菓子屋さんやら、まだガラス引き戸の間口を持った、コーヒー焙煎屋さんやら、商店街マニア垂涎の通りである。そのなかでは「ボンボン」はまだ新参者なのかもしれない。

店内には2つの冷蔵ショーケースがあり、大きな方には今風の洋菓子が、小さな方には昔風の洋菓子が並べられている(でも、どちらもフランス菓子ではなく洋菓子)。小さな方のサヴァランが三番人気だったり、大きな方にクレームダンジューがあったり、もちろんモンブランは小さいの方に黄色いの、大きい方に黄色くないのである。小さな方なら、4つ買っても千円でお釣りが来る。1個五百円を超えるのが当たり前の、当世のフランス菓子とはちがうのだ。しかも材料が新鮮なので、嫌味がない。ただし甘さの効きは、やはり私にとってはやや「甘い」。

店内にいると、会社のお使い物とする大口の客が結構出入りするので、この店が夕暮れの骨董品ではなく真昼間の現役であることが分かる。この店を現役にさせている社会構造こそ、都市名古屋の魅力の1つといえるかもしれない。ねえ、河村さん!

中筋 直哉 について

法政大学社会学部教授。1966年神戸市生まれ。
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