紙魚のごちそう3:法政大学多摩図書館の個人文庫

今どき退職するときに、大学図書館に本を寄贈すると言っても断られるに決まっているし(今どきはどんどん除籍、捨てられる)、寄贈して役立つような稀覯本を持っているわけもない。でも、昔はちがった。

わが多摩図書館の地下書庫2階は昔の有名な先生たちの個人文庫がいくつも収蔵されていて、借りにいくたびにワクワクする。たとえば、B.マリノフスキの『西太平洋の遠洋航海者』の原典、初版ではないが所蔵していたのは日本史家の石母田正。意外だが納得。経済史家土屋喬雄の『日本資本主義史論集』は、土屋が論敵服部之総に贈ったものが服部の文庫に収められている。服部の方が若輩だから、それは敬意であったろう。ちなみにこの論文集には、土屋が旧制二高の同級生渋澤敬三に勧められて、同じ同級生の有賀喜左衛門と一緒に調査した岩手県のムラ(旧南部二戸郡石神村)のフィールドノートが収められている。

さて今日の発見は、柳田国男の『都市と農村』、今どき岩波文庫でも読めるし、佐藤健二先生が関わられた著作集もあるから、初版で読む必要はないのだけれど、もしやと思って検索したら、何と農学者栗原百壽の個人文庫収蔵。手に取ると初版である。というか、奥付を見るとシリーズ予約販売の非売品だった。戦前の朝日新聞もアコギな商売するね。

栗原百壽は私の先生の先生、福武直へのもっとも先鋭な攻撃者だった。統計もフィールドもできて、硬いマルクス主義者となれば手に負えない。しかし、こうして柳田も読んでいるので、ますますチョロい福武の手には負えなかっただろう。開いてみると、赤線が的確に引いてあって、さすがである。

教師生活あと20年足らず、こんなことだけして暮らして行けたら・・・紙魚の悲しい願いである。

中筋 直哉 について

法政大学社会学部教授。1966年神戸市生まれ。
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