憧れの同世代人に会う:ジャイアントパンダの7本目の指を発見した人

朝開いてすぐの展示室には人の気がなく、大量の剥製と頭骨だけが静かに並んでいる。と、突如忙しなく動くイキモノが・・・あれは、生遠藤!。

東大総合研究博物館の特別展示「家畜」を見に行ったら、私が同世代(たぶん1歳上)で一番憧れる学者、山中伸弥先生よりすてきだと思う学者、企画者の遠藤秀紀先生に会うことができた。ジャイアントパンダの7本目の指(状の手骨の突起)を発見したので有名な方である。本当は先生のレクチャーがあったのだが、私は授業があって出られない。だから名刺だけ渡して、その場を後にした。ああ、ご著書を持参してサインしてもらえばよかった・・・。

遠藤先生のご専門は本来は動物解剖学というのだろうが(ご本人は「遺体科学」と言われる)、私はまぎれもなく文化人類学だと思う。家畜を生み、育て、食べるというのは、まあアリとアリマキもそうだといえばそうだけれど、実に人間的な行為で、アリは1つの種は1つのアリマキの飼い方しか知らないが、ヒトの方は、同じニワトリでも実に多様な飼い方があるのである。それが100羽以上のニワトリの剥製によって展示されているのだ。チャボ(矮鶏)かわいいけど、今見ないな・・・。

私の背より肩丈の高い巨大なホルスタインの剥製。フェイクでしょうと思うとさにあらず。精子採取用(つまり超エリート)の雄牛の実物だ。どんな牧場を訪ねても決して会うことのない幻の英雄。うーん、エロチック(何がやねん)。

展示を見ながら、私は、こうした家畜を創る人間の欲望は、きっと自分自身のカラダとココロにも向かったにちがいないと思う。そのことは展示には示されていないけれど、きっと遠藤先生ならそこまで考えられたにちがいない(人体に関するご著書もある)。自己家畜化欲望の行き着く先の1つは「考えること」だ、といえば、もうC.レヴィ=ストロースの『野生の思考』の世界である。しかし、最終的に人間嫌いのレヴィ=ストロースとちがう遠藤先生の美点は、そうした人間を心底愛していることである。レヴィ=ストロース派の私は、だから遠藤先生に憧れるのだ。

遠藤先生は、「興味を持ってくださってありがとうございます」と言われる。普通の外交辞令かもしれないが、私はハッとさせられた。遠藤先生のような優れた研究でも、多くの人が興味を持つかどうかは分からない。有名になりたいとか、女学生にチヤホヤされたいとか、そんなのは筋違いで、逆に頭のいい俺だけ分かってりゃいい、というのも筋違いで、王道は「興味を持ってくださってありがとう」なのだ。まだまだその境地に達することができない。

中筋 直哉 について

法政大学社会学部教授。1966年神戸市生まれ。
カテゴリー: 東京漂流, 私の「新しい学問」, 見聞録 パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください