昔の詩

4年前のちょうど今頃、仕事で行き詰まったとき、夜明け前の多摩丘陵を歩いて家に帰ったときに思いついた詩を1つ。

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すべて萌え出る五月の野を

ひとり敗残の兵はゆく

夜明けの浄められた大気の底

朝露ふる草原を分け

呪われた虫けらのように

ひとり敗残の兵はゆく

背に映る、あかあかと燃える戦場の劫火

そこにひとつの正義なく、救うべき命もない

ひばり、小さな鳥たちよ

彼のささやく歌を聴くか

野菊、か弱い花たちよ

彼の歩みに合わせ揺れるか

すべて萌え出る五月の野を

ひとり敗残の兵はゆく

彼を迎える故郷はどこ

彼を抱きしめる同胞は誰

彼の雑嚢に残るものは何

日は昇る 野は命に満ちてゆく

新しく生きよと 風が吹き渡っていく

その風の中、ひとり敗残の兵はゆく

中筋 直哉 について

法政大学社会学部教授。1966年神戸市生まれ。
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