森と湖のまつりから遠く離れて:子どもとの対話から

子どもがマンガ『ゴールデンカムイ』にはまっていて、その話の相手をしていると、「お父さん、意外に詳しいね」と驚かれる。猟のことを知っているのは、2000年代に岩手県と熊本県の中山間地域に社会調査に通ったときに聞いた話によるのだが、アイヌについてはもっと古い。今の君と同じ年くらいの頃のことだよ。

高校生の頃山口昌男『文化人類学への招待』(岩波新書)を読んで文化人類学者になりたいと思ったが、どうしたらなれるのか分からない。わが校は医学部や法学部に行くための学校で、何学部に行けば文化人類学を学べるのか、何の情報もない。本の奥付に山口が東大出だと書いてあるので、東大に行けばいいのだろうと思ったが(山口が国史出だとは知るよしもない)、模試の成績はまったく足りない。京大はテレビに出てくる梅棹忠夫が嫌なヤツなので問題外。そんなときだ、北大に行ってアイヌの研究をするのはどうだろう、と思いついた。さいわい模試の成績は合格圏内。早速近くの本屋に行って、それらしい本を1冊買ってみた。新谷行『アイヌ民族抵抗史』(三一新書)。

買う本を間違えましたね。新谷行。いわゆる「新左翼の運動家」でした。中身は分からないことだらけで、私は著者宛に質問(詰問)の手紙を書いてしまった。もちろん返事は来なかったけど。でも、グッとくる記述もあった。人類学会大会に乱入した山本多助エカシが、並み居る(形質)人類学者のお歴々に向かって、「学者さんたちには魂がない」と叫んだ。ああ、ほんとうにそうだ。今の私も。

結局北大進学では親を説得することができず、退路を断って猛勉強し、何とか東大にモグり込めた。一年生の夏、部活で羅臼岳に登ることになったとき、札幌で夜汽車を待つ間に地下街の本屋で「地方出版コーナー」というのを見つけた。地方出版という言葉自体が初体験。棚で見つけたのが写真の2冊である。

子どもと話しているときに思い出して、書架の奥の奥から探し出した。30年以上、引っ越しに次ぐ引っ越しのなかでよく捨てずに残していたものだ。あのころの心、魂もこの本のように少しは今の私に残っているといいのだが。

中筋 直哉 について

法政大学社会学部教授。1966年神戸市生まれ。
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