科学に優越する社会:国立天文台ハワイ望遠鏡反対運動に寄せて

朝食を食べながら、ぼんやり朝のNHKニュースを見ていると、ハワイ島マウナケア山に日本の国立天文台が新設する望遠鏡に対して、地元の先住民が反対運動を行っているというリポートが流れてきた。「うーん、これずいぶん前から揉めてるな」と思って画面を見ると、当のマウナケア山の山頂が映った。世界最高峰(海底面から)の活火山の膨大な山頂に、白いドームがいくつも乱立している。私はハッとした。

故郷の山六甲山の最高峰には、昔白い巨大なパラボラアンテナが2基ずつ東西を向いて建てられていた。神戸の市街地からは見えないが、大阪方面からはよく見えていたと思う。それは米軍が朝鮮半島有事の際、B52(つまり核爆弾)を誘導するためのもので、敷地はお決まりの「日本の法律によって立ち入り禁止」だった。やっと登りついた小学生の私はプンスカ怒ったものである。そのバラボラとマウナケアの白いドームが重ね映しになったのである。ああ、先住民の人びとの気持ち、分かる。国立天文台の人、日本人ならどうして分からないの?

社会学的には問題はもう少し厄介で、当然公共事業としての誘致派もいて、テレビに出てきた人は朝鮮系の名前を持つ移民の子孫だった。宇宙の果てを見晴るかすという、多分に空想的な科学の大義名分、ポスト・プランテーション後の産業のないハワイを公共事業で潤そうという移民の子孫たち(その最大多数派は日系だろう)の経済的利害、反対運動を通して、先住民のアイデンティティを高めている現代の先住民たちの政治的利害、この3つの質の異なる正義がどのようにつながって解決の道が見出されるのか、興味深い。

個人的には、3つの正義のうちでもっとも分が悪いのは科学だと思っている。宇宙の果てを知ったって、いったい何になるというのだろう。また新しい兵器のタネになるだけではないか。

 

 

中筋 直哉 について

法政大学社会学部教授。1966年神戸市生まれ。
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1 Response to 科学に優越する社会:国立天文台ハワイ望遠鏡反対運動に寄せて

  1. 中筋 直哉 のコメント:

    望遠鏡の目的は宇宙の果てを見晴るかすのではなく、第二の地球を見つけるのだそうだ。ますます不要不急である。

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