芸術の秋第一弾:豊田市美術館「クリムト展」を見る

地方巡業中の「クリムト展」を豊田市美術館で、家族で鑑賞する。東京なら超満員でもまあ地方なら、と侮っていたがけっこうな入り込み具合。でも、経路が上手に引かれていたせいか、割とゆっくり見ることができた。

といっても、相変わらず音楽に比べて絵画はオンチで、クリムトも、中学生の頃読んだ作曲家G.マーラーの伝記に出てきた友人くらいの浅はかな知識。それでも見ていて非常に面白かったのは、数年前、これも家族で鑑賞した映画『黄金のアデーレ』(S.カーチス監督,2015)のおかげである。クリムトに描かせた伯母アデーレの肖像画をアンシュルス下のウィーンでナチス(の犬になったオーストリー)に奪われ、命からがらアメリカに亡命しためいっ子が、戦後なぜかオーストリーの国家所有になってベルベデーレ宮殿に飾られていたその絵を、裁判の果てに取り戻すという話である。紋切り型で恐縮だが、か弱い市民が国家の巨悪と正々堂々と戦って勝つという、水戸黄門的爽快感のある映画だった。だから子どもは、キャプションに「ベルベデーレ」という文字を見つける度に、「これも、あれも一般市民から命と一緒に奪われたものなんだね」と、素朴にプンスカしていた。まあ、全部がそうじゃないと思うけどね(笑)。

個人的になるほど、と思ったのは『ベートーベン・フリーズ』という名の壁画で、ベートーベンの第九交響曲をモチーフにしたものだそうだが、私にはモチーフではなく、「精確な装飾」という感じがした。まるで楽譜に絵を付けたような、だから見ていると第九が聞こえてくるように感じた。でも、その第九も、1930年代から50年代には、ヒトラーの前で演奏するフルトヴェングラーとか、アウシュヴィッツの虐殺前のユダヤ人合唱隊とか、バイロイトを免罪する、おなじフルトヴェングラーの再開コンサートとか、ウィーン国立歌劇場にワルターが帰ってきたときとか、きわめて政治的なイベントで鳴らされてきたのだ。

ね、ほとんど絵そのものの話になっていないでしょう。だから絵画オンチというわけです。

中筋 直哉 について

法政大学社会学部教授。1966年神戸市生まれ。
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