下司の勘ぐり:クリムト展補遺

日曜朝の家事の合間、突然テレビからマーラーの交響曲第6番の第2楽章(私のクーベリック盤では)が聞こえてくる。あれ、と思って見ると、ETVの『日曜美術館』で、この間見たクリムト展の『ベートーベン・フリーズ』を解説している。それによると、左壁の黄金の騎士のモデルがマーラーだというのだ。図録にはクリムト自身と書かれていて、私は素直にベートーベンだと思っていたので、色々な見方もあるものだなと思った。

いや、もし黄金の騎士がマーラーあるいはクリムト自身なら、この絵は微妙だぞ。なぜって右壁の最後のモチーフは黄金の騎士が鎧を脱いで女と抱擁する姿だからだ。マーラーあるいはクリムトが抱擁した女は1人しかいない。それはクリムトが初恋の人で、後にマーラーと結婚したアルマ・シンドラーだ。とすると、中央壁の巨大なゴリラは、マーラーにとってのクリムト、クリムトにとってのマーラー?。公式な展覧会を飾った壮麗なパブリックアートが、突然ひどく私的でスキャンダラスな絵に見えてきた。

ちょっと素人考証してみると、『ベートーベン・フリーズ』が発表された1902年にはマーラーはすでにアルマと結婚していて、その結婚生活を描いた第6番は1903年から04年の夏に書かれたという。ただし、それは1895年から96年に第3番を書いた、クリムトも滞在したアッター湖の作曲小屋ではなく、ヴェルター湖の作曲小屋で、だった。なぜ、夏の別荘を変えたのだろう。晩年妻を監禁したいノイローゼに陥ったマーラーのことだから、きっとクリムトから引き離したかったのだろう。では、クリムトはなぜこの絵を描いたのか。マーラーに対する敬意?いやいや、内心の勝利宣言ではないか。あの娘(クリムトの18歳下、マーラーの20歳下)は今でも俺のものだよ、という。

下司の勘ぐり極まれり。反省反省。

 

 

中筋 直哉 について

法政大学社会学部教授。1966年神戸市生まれ。
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