ソ連って何だったんだろう?:ドキュメンタリー「オレグの自立」を見る

金曜夜のETVの「ドキュランド」では見逃したドキュメンタリーをやっているので、ときどき見る。「オレグの自立―発達障害と向きあう青年の物語」は、放映されたとき見ようかと思ったが、なぜか気が乗らなくて、録画もしなかった。今回は偶々テレビをつけていた流れで見始め、最後まで見てしまった。スウェーデンのテレビ局の制作だが、ディレクターはロシア人のようで、舞台もロシアの地方都市だそうである。

正直、いいドキュメンタリーとは言い難い。創られた物語性が強すぎる。ドキュメンタリーと言っても生の事実ということはあり得ないので、大なり小なり創る側の物語が混入し、映像を統制するわけだが、それが強すぎると「いや、それはドラマでしょう。フィクションでしょう」と言いたくなる。それでも最後まで見ていられたのは、主人公の22歳の青年男性オレグさんのたたずまいが魅力的だからだ。大江健三郎の書くイーヨー、とくに大人になったイーヨー(アカリ)にも似ていて、ああ、こういう風に生きたいな、と思った。

しかし何より目を引かれたのは、背景のロシアのある地方都市の風景である。正教会の聖堂のある北欧風の旧市街、それに対抗するかのようなソ連時代の住宅団地、凍った巨大な川(ヴォルガ河?)、美しい並木道を往来する、バラックのような路面電車と新しいベンツ。ソ連後のロシアの生活というものをいろいろ想像させる映像だった。「科学の子、鉄腕アトム」ではないけれど、社会主義は民主的な科学によって差別的な伝統と闘っていたので、正教会には住宅団地で、精神障害には薬物治療で、だったのだろう。でも、それが破産した後は、伝統も社会主義もともに破砕されたガラスのように散らばり、その上を人々は足を傷つけながら歩いて行くしかないのだろう。でも、それはロシアだけのことだろうか。

中筋 直哉 について

法政大学社会学部教授。1966年神戸市生まれ。
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1 Response to ソ連って何だったんだろう?:ドキュメンタリー「オレグの自立」を見る

  1. 中筋 直哉 のコメント:

    後で調べたらこのドキュメンタリー、2015年のアムステルダム国際ドキュメンタリーフィルム祭で受賞したもので、監督はロシアではなくポーランドのベテランだそうだ。舞台は、私の根拠のない予想通り、ニジニノブゴロドだった。中学生時代、地理得意だったので。

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