中古典とは言えないが:けっこう面白い古本

たまたま研究の途上で知って公共図書館で借りて読んでみたら面白かったので、「日本の古本屋」で探したら状態のよいものを安く入手できた。有沢広巳・玉野井芳郎編『近代日本を考える』(1973,東経選書)。喜寿記念企画であろう有沢広巳を囲んで、清水幾太郎、堀米庸三、辻清明、佐伯彰一、中村隆英が集まり、玉野井芳郎と早坂忠が進行役を務めたシンポジウムの記録である。面白かった点を列挙してみると、

1.「インテレクチュアル・ヒストリー」という副題が面白い。言説分析でも社会思想史でもない。まあありていに言えばインテリ群像史。1920年代の治安維持法から1950年代のスターリン批判までの時代設定だからインテリとはマルクス主義者ということになり、労農派の有沢が座頭だから講座派の消長を冷めた目で眺めるということになる。

2.有沢から一回り年少の清水幾太郎が実に生き生きと話している。有賀喜左衛門(柳田国男再評価の文脈でその筆頭弟子として)を「白樺派の坊っちゃん」とクサしてみたり(有沢は二高で一年年長だから土屋喬雄が首席で有賀が凡才だったことを知っているはず)。でもやっぱり恩師戸田貞三先生のことが忘れられないんだな。社会学者の期待株は安田三郎だというところも注目。一方、堀米庸三が社会の現状分析として清水幾太郎を丹念に読んでいたというのも驚き。

3.その戸田貞三、アメリカ留学から帰ってきたとき私たちは期待していたと有沢広巳は言う。「私たち」とは労農派のことだろう。戸田は労農派のゴッドファーザーの高野岩三郎の大原社会問題研究所の最初の研究員だったから、皆その才能を認めていたわけだ。でも期待外れ。末弘厳太郎も期待外れだったと言っている。なぜ?『家族構成』結構いい本ですよ。

4.経済学者中心だからだろうが、大塚(久雄)史学の衰退から宇野(弘蔵)理論の流行へというストーリーが面白い。大塚史学の墓掘り人として堀込を招いたのだ。その上宇野理論にも冷めた目線。有沢にとってはライバル?それともゴッドファーザー高野の女婿への冷ややかな嫉妬?。

まあ、何の役にも立たない研究ですけどね。

中筋 直哉 について

法政大学社会学部教授。1966年神戸市生まれ。
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