故郷の味:扇の港より2

しばらく堅い話を続けたので、今回は食いものの話を。わが故郷神戸の味といえば、多くの人は「神戸牛」といわれるだろう。たしかに、ぜいたく好きの私の祖母は、子どもの私が遊びに行くと、「直哉、今日はええ肉買うといたで。ステーキがええか、それともビフカツにするか」と、ニヤニヤしながら聞いてきた。もちろん私の答えも祖母の予想も「ステーキ肉で作るビフカツ」に決まっているのである。肉屋は「大井」が有名だが、わが家は平野の「八百丑」もよく使っていた。元町の大丸に出店があり、サービスのよいことで知られた女性の店員がいた。包み紙が昔の神戸の風景の版画で、また中に入れられたビフテキの作り方のレシピが懐かしい。

とはいえ、やはり神戸の味といえば中華である。私には次の2品。1つはトアロードの東天閣の「鯉の丸揚げ」(糖醋鯉魚)、もう1つは元町の別館牡丹園の「ひき肉のレタス包み」(生菜包肉山松)だ。前者は鯛や鱸で代用し、後者は自分流にアレンジして(揚げた春雨は欠かせない)、わが家のごちそうになっている。センター街の太平閣の「豚まん」も、わが家で手作りする豚まんにどこか影響しているに違いない。

中華以外ではたこ焼き。全国的には「明石焼き」と言われている、ほとんど卵焼きの生地で焼き、三つ葉を散らしただし汁につけて食べるタイプが、私にとってのたこ焼きだ。生地にネギとか紅ショウガとか入っているのはダメ。センター街の「たちばな」が有名だったが、祖母は昔魚の行商に来ていた明石の漁師から教わったと言っていた。今わが家では南部鉄のたこ焼き鍋を、大震災の時に使ったカセットコンロで焼いて作っている。

食後のデザートでは、まず「観音屋」のチーズケーキ。高校生の頃、定期試験が終わると、友人とLPを買いにセンター街の星電社まで行き、帰りに元町まで足を伸ばして「観音屋」でコーヒーと一緒に頼んだものだ。いつも空いていて、大人っぽいお姉さんが店員なのがよかった。ずっと後で帰省したときに立ち寄ったら行列ができていて、新神戸駅では土産として冷凍して売っていたので驚いた。浦島太郎の気分。これは、日本式の丸いマドレーヌにとろけるチーズをのっけて焼けばできそうだが、やったことはない。

今はないチョコレートの「コスモポリタン」の店先には、まだモロゾフ夫人が座っていて、客にチョコを勧めていたと思う。自分でアソートチョコを作る器用さはないので、原料のチョコをヴァローナと奢って、毎年ガトーショコラ・ド・ナンシーを焼いている。

中筋 直哉 について

法政大学社会学部教授。1966年神戸市生まれ。
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