ニューヨーク社会学者とは誰か?:矢澤修次郎先生に続いて

「貧困の文化」で有名なオスカー・ルイスを英語版のwikipediaで引くと、本名がレフコヴィツと書いてあってびっくり、知らなかった。経歴にはラビの息子とも書いてあるので、デュルケムと同じだ。東欧、たぶんロシアからの移民二世なのだろう。ロシアからの移民二世で社会学者といえば、職場の先輩で、日本社会学会の「学会官僚」として二番目にお世話になった(一番目は宮島喬先生)矢澤修次郎先生の『アメリカ知識人の思想―ニューヨーク社会学者の群像』(東大出版会)である。その研究の中心の1つはD.ベルだが、ベルもロシア系ユダヤ人二世で本名ボロツキー(タイムボカンみたい)。ルイスは1914年生まれで、ベルは1919年生まれ、どちらもシティ・カレッジからコロンビア大学大学院へ進学した。そのコロンビアにいたのはR.K.マートンで、1910年生まれの彼もロシア系ユダヤ人二世で本名シュコルニク。ハーバードでの先生は、ロシア系ユダヤ人一世のP.ソローキンだ。さらにルイスの奥さんの兄貴は何とA.マズローで、1908年生まれの彼もロシア系ユダヤ人二世、本名は調べられなかったがたぶんマスロフとかいうのだろう。マズローも学部はシティ・カレッジだ。ルイスにボアズとベネディクトのもとで人類学を学ぶようアドバイスしたのはマズローだそうだ。マズロー、マートン(ただしマートンはフィラデルフィア生まれ)、ルイス、ベルと、この塊のすごさは一体何だろう。矢澤先生の本は、彼らの学生運動体験に注目していて、それは矢澤先生ならではの面白さなのだが、家族や出自の方に光を当てると、もうそこはトマスとズナニエツキの『ポーランド農民』の世界なのだ。

そういえば映画『ウェストサイド物語』の男の主人公は「トニー」となっているが、本名はポーランド移民二世のアントンだ。初期設定はユダヤ移民だったそうだ。女の主人公「マリア」の方は初期設定がイタリア移民だったのが、プエルトリコ移民に変えられた。映画ではほとんど触れられないが、初期設定では二人は宗教的にも対立していたのだ。

私のバイブルの1つ、L.コーザーの『亡命知識人とアメリカ』を見れば、経済学の方はロシア系ユダヤ人一世がきら星のように出てくる。レオンチェフ、マルシャーク、ガーシェンクロン、ロストウ、ロソフスキー、ちょっと経済史まで広げるとポスタンやコスミンスキー。この人びとがマルクス・レーニン主義を経済学としてどう乗り越えようとしたのか、興味は尽きない。

亡命知識人をナチスとアドルノに代表されるフランクフルト学派の枠組みだけで見てはダメだ。レーニンとスターリンのソ連との関連で見なければ。このことに気づいたのは、実はスピルバーグ監督の映画『ブリッジ・オブ・スパイ』を見たときで、敵役のソ連のスパイが実に知的で素晴らしかったので(現代英国きってのシェークスピア俳優だそう)、こうしたロシア移民がアメリカにたくさんいて、そのことがマッカーシズムの背景にあったのだな、と想像した。

この線、もう少し追ってみたい。

中筋 直哉 について

法政大学社会学部教授。1966年神戸市生まれ。
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