僕の先生は~労農派:蓮見音彦『現代日本の地域格差』を読む

師匠蓮見音彦先生から、新著『現代日本の地域格差』(東信堂)をご恵贈いただいた。前著『現代日本の地域分化』(2012)から4年、ご退職後も精力的なご研究ぶりで、頭が下がる。我が身を省みれば、とてもできそうにないし、そもそも退職後生きていそうにも思われない。うちの職場では退職後すぐ亡くなる方が多いのだ。

わくわくするほど、私には面白い本である。全体が2部に分けられていて、第1部は公的統計の再集計による地域格差の分析で、象徴的に市町村の「ベストテン、ワーストテン」一覧が示されていて、いろいろ想像が広がる。たとえば、無医村の表では、長野県八ヶ岳北麓の村々が示されているが、ここの診療所では、あの『むらで病気とたたかう』の若月俊一門下の色平哲郎医師が長い間所長を務めている。現実と統計のズレが面白い。ちなみに色平医師は、私が山梨大学県民公開講座で講師を務めたときに来場され、散会後少し議論し、またその後何度かメールのやりとりをした。私の周りにはあまりいなかった、志ある医師である。

何より、統計は蓮見先生のお得意なのだ。学部3年生の農村社会学の講義では、先生が黒板一杯に描かれた図表を、私たち学生は一所懸命にノートに写した。もちろんゼロックスはもうあったが、写しながら考えることが大切だということは、言われずとも分かった。また卒論で先輩の論文の統計表がおかしいと書いたとき、「あれはね、勘がないんですよ」と微笑まれたことを覚えている。唯一残念なのは、先生は意識調査にも造詣が深いのに、この本ではNHKの『現代日本人の意識構造』などに触れられていないことだ。もちろん意識調査で地域格差を見るのは難しいが、重ね合わせることはできると思う。

そして第2部、何と「国家独占資本主義論」の復活である。まず参照すべき先行研究として大内力『国家独占資本主義』(1970,東京大学出版会)が特定される。私はまた思い出す。昔先生に「民俗学では何を読めばいいですか」とうかがったとき、先生は「福田アジオさん」とだけおっしゃった。言外に他は読まなくていいという雰囲気が漂っていた。私にはそういう先生なのである。この場合もだから、大内力だけ読めばいいのである。

しかし、その後の先生は、やや歯切れが悪い。「過度に発達した資本主義」をもはや「国家独占資本主義」とは呼べないのではないかとおっしゃる。私には異論がある。そもそも「国家独占資本主義論」は高度に発達した資本主義経済に対応する/を調整する社会体制を論じる理論なのだから、むしろ「国家独占」の部分を、現代に対応するよう「脱構築」すべきなのではないか。そうしないと、マルクス主義社会理論は応急処置的なパッチ(絆創膏)になってしまうのではないか。

公的な統計の再分析とマクロで、批判的な社会理論のセットは、高野岩三郎にはじまり、山田盛太郎と大内兵衛によって確立された、日本のマルクス主義社会科学の「しんのみはしら」である。その末席に連なれた幸福をかみしめつつ、自分の研究を深めていきたい。

中筋 直哉 について

法政大学社会学部教授。1966年神戸市生まれ。
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