反ワーグナー・反バイロイト:昨夏の『パルシファル』鑑賞中

年末にNHKBSでやっていた、昨夏のバイロイト音楽祭の『パルシファル』をVTRで見ている。見ているというのは、4時間以上もあるので、自宅で見るのは家庭破壊だから、上京した夜に少しずつ見ることにしたのだ。

1幕1場の終わりまで見たところで、困ってしまった。何だかコマンド部隊みたいなのが出てくるし、クンドリ(裏切りを悔やむ裏切り者の「女」!)はムスリム風だし、嫌な感じだなと思っていたら、場の終わりで画面がCGに切り替わって、モンサルヴァート城がスペインではなくて、イラクのモスル近郊にあることが示される。もう気になって見ていられない。VTRを中断してググってみると、モスル近郊のTall Kayfという城壁で囲まれた(正確には、囲まれていた)街に、Most Sacred Heart of Jesus というキリスト教会らしき建物が現実にあるようだ。演出家はよく調べたのだろうか、それとも私と同じようにちょっとググっただけなのか。イラクのキリスト教がどのようなものか、私にはまったく知らない。シリアなどと同系統の東方典礼教会だろうか。野蛮な十字軍の影響を免れ(アカデミー・フランセーズの(ムスリム嫌いのレヴィ=ストロースの後任の)A.マアルーフが書いた『アラブが見た十字軍』平凡社ライブラリー、を参照)、ムスリムと共存していたのが、モンゴルの侵攻で離散したのだろうか。今般のISがモスルにこだわるのは、そこがキリスト教徒の地だからなのだろうか。ニュースでも見聞きしたことがない。そこに気づかせてくれたのは、ありがたい。

しかし、である。キリスト教的正義の勝利という、ワーグナーならではのただでさえヤバいテーマを今の中東を舞台してにやるのは、まったく恥知らずの西欧中心主義だ。バイロイト祝祭劇場はISに爆破されても、文句は言えないだろう。一応最後まで見るつもりだが、もう大方嫌になっている。神様、どうかこの愚かな者どもに雷を落としてください。

[追記]と、書いてはみたが、やはりワーグナーを今どうやれば嫌悪だけで終わらずに聞けるのか、もう少していねいに考えてみたい。とくにマイスタージンガー、トリスタン、パルシファルの3作について。

中筋 直哉 について

法政大学社会学部教授。1966年神戸市生まれ。
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2 Responses to 反ワーグナー・反バイロイト:昨夏の『パルシファル』鑑賞中

  1. 中筋 直哉 のコメント:

    舞台はモンサルヴァート城だと思っていたが、手持ちのクーベリックの輸入盤の歌詞カードには「モンサルヴァートの森のグラール(聖杯)城」と書いてある。今気づいたが、モンサルヴァートとはサルヴァート=救済のモン=山という造語だろう。

  2. 中筋 直哉 のコメント:

    テル・カイフという町の名は、石の丘という意味らしい。現代語のカイフは古代語のケファで、ケファといえばシモン・ペトロ。偶然の一致かもしれないが、この町はもしかすると、もう1つのヴァチカンなのかもしれない。

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