上野千鶴子からケンカ「以外のこと」を学ぶ:日本的反グローバリズムの論理

上野千鶴子先生の新聞インタビュー記事に対して、主に中堅の研究者から批判が相次ぐという事件が最近あった。詳細は上野先生がトップのウィメンズ・アクション・ネットワーク(WAN)のサイトで読め、牟田和恵「官房長官」の援護射撃がはじまったので、もう議論は深まらないような気がするが、私は自らに照らして学ぶことが多かった。

私の雑ぱくな理解では、上野先生はこの国の市民に多くは期待しないという前提で、その総意が移民否定であることは揺るがないから、無理な移民肯定(それはつねに市民を裏切る資本の思うつぼである)のかわりに鎖国的社民路線(再分配の強化)を選択しましょうとおっしゃっていたのだと思う。「それしなかいでしょう」なのか「そうしましょう」なのか、にわかに判別しがたいところが先生らしい感じがするが、私には「そうしましょう」と読めた。先生は「おひとり様」用介護労働力輸入派だと思っていたので意外だったが、ある種のリアリズムとして、あり得る考え方かなと思った。これに対して中堅の(もはや気鋭ではない人たち・・・笑)批判者たちは、当然のことながらその自民族中心主義と、デファクトで移民に依存してきた、この国の既得権益層の傲慢さの代表としてと非難しているのである。

今私の職場では、私が苦労して作った原案をもとに進められたグローバル化事業が存亡の危機にある。というのはウソで、私を病気に追い込んだように、公開された当初からそれはずっと同僚たちの非難の的だったから、もともと無理な話だったのだ。このままだと事業撤回、補助金返上という、リーダーの不正で潰れたCOEにつぐ不名誉な結末となるだろう。私がずっと理解できなかった、この同僚たちの声を理解するのに、上記の論争はたいへん示唆的だったのだ。リアリストで利己主義者の上野先生からすれば、私の努力は愚の骨頂、あるいは資本と政府(国家独占資本・・・笑)に踊らされているだけ、ということになるのだろう。同僚たちの声は、まさに先生が見切った通りの、この国の市民の実像である。こうしたリアリスト(ニヒリスト?)の政治姿勢が、私にはできないことだったな、としみじみ思う。

上野先生に、私は二度ほめ殺された。一度目は助手として上野先生に仕えていた頃、たしか4階の上野先生の研究室に上る階段の途中で、何かの拍子に「中筋さんは、ずっとここにいる感じがありますね」と言われた。学部3年から7年以上いるわけだから、それはそうなのだが、真の意味ははっきりしている。さすがにそれで天狗になるほど若造の私はバカではなかったが、少なくとも将来を否定はされていないという楽観的観測を持ったことはたしかだ。やはりバカである。

二度目は、関東社会学会という学会があって、上野先生が会長を務められていたときのこと、次期の理事選挙の結果を会長が当選者に伝えるという変な慣習がこの学会にはあって(今はどうか知らない)、上野先生から直接「当選通知」の電話をいただき、「上位の得票だったので、ぜひ引き受けてもらいたい」と言われた。まさかそんなことはあるまいと思ったけれど、悪い気はしなかった。たぶん傍にいた連れ合いに、「上位だっていうから、ちょっと断れないよ」とにやけながら言ったと思う(名古屋に住んでいて、土曜日に授業のある私が東京の学会の常務理事をやるのはけっこうたいへんなのだ、そのことは前便で書いたように、やがて病気の1つの原因となる)。庶務理事になって得票結果を見れば上位なんてとんでもない、一ケタの得票数。やはりバカである。

こうした体験を思い出すと、今回の上野先生のふるまいも、ある種の「ほめ殺し」ではかなったかと思えてくる。だとすれば、怒るべきなのは良心的な中堅の研究者たちではなく、私と同じく「ほめ殺された」この国の市民たちなのではないだろうか。なぜなら、ほめ殺しの真意は軽蔑と敵意なのだから。ただし一度怒ったあとは、むしろ他人を「ほめ殺す」ことでしか生きられない(だしぬけない)ような人を憐れみ、そうした人を生まないような公正な社会をつくっていくよう努めるべきだろう。

中筋 直哉 について

法政大学社会学部教授。1966年神戸市生まれ。
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1 Response to 上野千鶴子からケンカ「以外のこと」を学ぶ:日本的反グローバリズムの論理

  1. 中筋 直哉 のコメント:

    牟田和恵「官房長官」談話の「人が移動しなくてよい社会」について、上野先生のふるまいとは別に、私は断固ノーである。東大や京大を出て成り上がった人が言うことではないだろう。それだけでなく、私はそれは社会学そのものの否定であると思う。降霊術があれば、安田三郎先生に降霊していただきたい。

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