東大でない教師が新入生にすすめる本

毎年東大出版会のPR誌『UP』4月号の特集は「東大教師が新入生にすすめる本」で、とくに理系の先生方が何をすすめるか、面白く読んでいる(文系の先生方は、広い意味で同業者なので大方予想がつく)。若い頃はいつか私も、と思ったこともあったけれど、まあそれはそれとして、自分ならどうすすめるか、ちょっと書いてみた。項目は4つで、私の印象に残っている本、研究者の立場からの必読本、私のすすめる東大出版会の本、私の著書だ。後の2つは21世紀になってから、東大と東大出版会が市場主義になってからの追加項目だ。

まず私の印象に残っている本は、小林信彦『日本の喜劇人』(新潮文庫)だ。高校生の頃父のわずかな蔵書から借り出して読み、耽溺した。なかでも宍戸錠の日活アクションの章が衝撃的で(「八時ダヨ!全員集合」の大オーバーな囚人役で知っていただけに)、それを見たくて東京の大学に行こうと思ったのである。また、プロフェッショナルたちの歴史的群像劇として、今でも私の学説史や歴史社会学の「文章読本」である。今は『完本』で読めるが、元の版の方が同時代史的でなまなまなしい(『完本』は横山やすしと渥美清という2人の死者に偏る)。若い人には「御三家」登場以前など、神代の話に見えるだろう。

次に研究者の立場からの必読本だが、これは読まなければならない本と読んでほしい本があって、前者は吉見俊哉『都市のドラマドゥルギー』(河出文庫)、後者は大塚久雄『社会科学における人間』(岩波新書)だ。今年の『UP』を見ると、出版会の会長の本を挙げるのが近頃の慣例らしいので(渡辺浩前会長)、吉見現会長の古典的名著を挙げておきたい。前にも書いた通り、若い頃は「吉見の猿マネ」といわれたが、当時も今も吉見先生の猿マネなど絶対に不可能だ。別の線でやってます。大塚久雄の方は、私の社会学の無意識である。ウェーバー訓詁学者の誰が何といおうと、大塚久雄なしに社会学者としての私はない。

3つめの東大出版会の本と4つめの私の著書は、やはり矢澤修次郎編『講座社会学15 社会運動』の「社会運動の戦後的位相」を挙げたい。今までで一番がんばって書いたが、今に至るまでまったく誰からも言及されない論文である。

 

中筋 直哉 について

法政大学社会学部教授。1966年神戸市生まれ。
カテゴリー: 私の仕事, 見聞録 パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください