年をとるということ1:坂の上の雲を見て

家族で毎年楽しみに見ているNHKの『坂の上の雲』がはじまった。旅順要塞戦で消耗していく兵士たちの演技が、学生時代に銀座の並木座で見た戦争中の映画とは全く異なり、皆バラバラの身体の動きでしかないことに愕然とする。兵営生活や突撃の際、皆が静かに一体になる感じがないのだ。どんなに役者を選んでも演出を工夫しても、元の「身体技法」が変質してしまっては、もうどうしようもないのだろう。それが今の私たち日本人なのだろう。ところで、原作者がおそらく嫌っていた、乃木希典のたたずまいが心に迫ってきてしょうがない。これまでこんな感じを持ったことはなかった。年をとったからかもしれないと思う。苦労して早く死んだ私の母方の祖父は、最期近くの衰えた頭で、よく「水師営の会見」を歌っていたという。本当の乃木大将がどのような人かは知らないが、彼のたたずまいがある種の疲れた心をゆさぶることを、あらためて感じた。

中筋 直哉 について

法政大学社会学部教授。1966年神戸市生まれ。
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