オルタナティブな社会学を開く:中江桂子『不協和音の宇宙へ』讃

先便で、今年はモンテスキューを読み直したいと書いたところ、たまたま中江桂子先生の『不協和音の宇宙へ―モンテスキューの社会学』(新曜社)が刊行されたので、さっそく買って読んでみた。モンテスキューの理論体系を明快に解説するだけでなく、そこからオルタナティブな社会学のアイデアをいくつも切り開いていくところがわくわくドキドキで、まさに理論研究の精華である。

中江先生とは、まだ私が駆け出しの頃、「モンテスキューとパレート」という奇天烈な演題が学会プログラムに掲載されていたのを目にしたのが最初の学問的接触である。正直その取り合わせの意味が分からなかった(この本を読めば分かる)。その後縁あってご結婚式の写真屋を務めることになり、はじめてお会いした。式には彼女の師匠の平野秀秋先生や田中優子先生が出席されていたが、まさかそれらの方々と同僚になるとは思わなかった。残念なことに、中江先生とはその後今に至るまでゆっくりお話したことはない。

これも駆け出しの頃、私は社会学史を教えることになって、とりあえず折原浩先生の受け売りの「デュルケームとウェーバー」ではじめたが、準備作業の中で、とくにデュルケムの前提として「モンテスキューとルソー」に興味を引かれた。ただ当時はルソーをホッブズとの対照で考えることに夢中になり、モンテスキューの方はなでるだけで終わってしまった。次の工学部では学説史を教えるわけに行かず、今の職場でも学説史の専門家(と平野先生)の前でそんな話をする自信がなく、そのままになってしまっていた。

この本の第一の長所は、モンテスキューの主要著作群を構造的に読み解くことを通して(重箱の隅をつつくのではなく)、デュルケム以降の社会学の、進化論的で機能主義的な偏向から自由になる途を具体的に指し示しているところである。そしてその途は、グローバル化した現代社会をポジティブに理解し、構想する途でもあるのだ。また学説史的にも、「趣向」とか「社会性」といったモンテスキューのアイデアがその後のフランス社会学史にもたらした貢献を明らかにする。読むに従って私たち読者は、デュルケムではなくモンテスキューを基盤とするオルタナティブな(そして今使える!)社会学の理論体系のイメージをつかんでいくのである。

この本に比べれば理論的精度は劣るし、言いたいことも一緒ではないのだけれど、オルタナティブな社会学の構想という点で、自分の仕事の先を行くものを感じて、励まされた。

中筋 直哉 について

法政大学社会学部教授。1966年神戸市生まれ。
カテゴリー: 尊敬する先輩たち, 読書ノート パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください