最初に読む社会学の本は?:朝日新聞7月11日朝刊の記事から

朝日新聞7月11日朝刊34面「文化・文芸」欄に「岩波文庫90年」の連載記事の中編が掲載されていて、生協書籍部調べの「東京大学駒場キャンパスで売れている文庫ベスト10」という表が付されている。驚いたのは、M.ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』が8位に、E.デュルケームの『自殺論』が10位に入っていることだ。他に社会科学の古典はない(文学の古典はG.オーウェルの『1984年』だけ)。ダメじゃん、後輩たち。2つとも教科書指定でしょ。それも買わないとできない宿題を出しているんだ、きっと。出している人をよく知っているので言いにくいけれど、こんなかたちで古典に、社会学に出合うのは幸せでない。きっとこの国のエリートたちは、社会学をルソー的な強制を許すような学問と誤解したまま社会に出て行くのだろう。

ではお前はどうかというと、私は300人規模の選択科目「市民運動論」のリポート課題としてマルクス・エンゲルスの『共産党宣言』を読ませている。もちろん批判的に読んでもいいし、興味をもって読んでもいい、いずれにせよ20世紀の世界にもっとも影響力のあった本だと思って読んでほしい、と言っている。幸いと言うべきか、「泣いて読む」学生はいない。

私も最初に読んだ社会学の本は抄訳の『自殺論』だったが(同じ駒場の900番教室で折原浩先生から紹介されたのだが、けっして強制ではなかった)、最初に読むことを勧めるのは『自殺論』でも『プロ倫』でもない。E.フロムの『自由からの逃走』である。フロムは社会心理学だって言ってるぞ。でも、今の社会心理学はもう全くフロムのようじゃない。このブログで言う、ヒューマン・ネーチャー学派になり果ててしまった。正直に言って『自殺論』も『プロ倫』も前世紀の遺物だが、『自由からの逃走』は、たぶんR.ベネディクトの『菊と刀』やD.リースマンの『孤独な群衆』とともに今世紀にも耐え得る研究だ。何より人間そのもの、さらには自分について反省するきっかけになる。自分について考えることと社会について考えることが一緒に深まっていくところが、社会学の第一歩であり、到達点でもある。

しかし、『自由からの逃走』は新訳なく、文庫もない。旧訳の日高六郎訳は、北川隆吉先生いわく「日本で一番売れた社会学の本」だったそうだが、今は『ナントカ社会学』に抜かれてしまっただろう。唯一無二のフロムの専門家、出口剛司東大准教授、ぜひ新訳と解説お願いしますよ。

中筋 直哉 について

法政大学社会学部教授。1966年神戸市生まれ。
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