テキトー社会調査法5:西平重喜『統計調査法』(1957,培風館)頌

大学3年生の秋、そろそろ大学院入試の試験勉強を始めようと思って、助手の町村敬志先生に「社会調査法の復習(授業は2年生に履修済み)には何がいいでしょう」とたずねた。町村先生はすぐに「西平重喜さんの『統計調査法』がいいよ」と教えてくださった。以来33年、これほど役に立った本はない。コンパクトなので教室に持って行きやすいし、遠距離通勤の鞄のなかでもかさばらない。知識は簡にして要、過不足なくて、持っているだけでありがたいお守りみたいな本である。ちなみに写真は連れ合いの蔵書で、私の33年ものは多摩の研究室に。

お守りというのはたとえばこうした記述。「母集団の相関係数が0か否かを検定する方法もあるが、パラメトリックな検定だから、一般的には使えない」(175ページ)・・・使えないんだよ!皆、聞いてる?

写真の隣の本は、この際だから古本で初版を取り寄せてみた林知己夫『サムプリング調査はどう行うか』(1951,東大出版会)。西平本のオヤブン本、日本最初の社会統計学の教科書。めくるとたちまち林大先生の名調子に乗せられて、数式は見なくてもどんどん読めてしまう。何よりスゴいのは巻頭言がマラルメの詩。「サイコロ一擲、けっして偶然を壊すことはない」。格調高すぎだよ!

佐藤健二先生の労作『東大社会学研究室の100年』(2004)によると、林大先生が非常勤で来られたのは1955年と56年、西平先生は57年から64年まで(その後は安田三郎)。まさにこれらの本は、そのまま蓮見先生や富永先生の世代に教えられていたのだ。当時2人は修士課程、授業に出たかどうか聞いておけばよかった(ちなみに『100年』のグラビアページには1961年のキャプションつきで、たぶん西平先生(と小型計算機)のもとで調査結果を検討する、尾高、福武、安田、富永、蓮見、松原、園田?の写真が掲載されている)。

当時町村先生のお声がけで私は2つのバイトをさせてもらっていた。1つは高橋明善他編『農村社会の変貌と農民意識』(1992,東大出版会)の調査結果のコンピュータ出力を切り貼りして2元クロス表を作る仕事。もう1つは町村先生ご自身の『「世界都市」東京の構造転換』(1994,東大出版会)のパイロットサーベイで、東京のビル街を歩き、どんなオフィスが入っているか聞いて回る仕事。一日の調査の終わりに、できたばかりの赤坂の全日空ホテルのラウジンでビールを奢ってもらったことは忘れられない。

大学院入試のライバルは数土直紀君と浅野智彦さん、社会調査なら何とかこの2人に勝てるのではないかという、あいかわらず姑息な計算。おかげさまでめでたく3人とも合格したが、その後計量で論文書いてないのは私だけ、トホホ。

次回で完結します。

 

中筋 直哉 について

法政大学社会学部教授。1966年神戸市生まれ。
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テキトー社会調査法5:西平重喜『統計調査法』(1957,培風館)頌 への1件のフィードバック

  1. 中筋 直哉 のコメント:

    『サムプリング調査はどう行うか』で一番引用されているのは何とウィリアム・エドワード・デミング、デミング賞の。この点、日本の統計学史のキモかも?

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