統計調査って何?:日銀生活意識調査をめぐって

友人がFBで日本銀行の「生活意識に関するアンケート調査(第82回)」を紹介していて、面白かったので全文を読んでみた。友人の言う通り、この低金利でまだ「金利が高すぎる」が約2割というのは興味深い。黒田総裁もひと安心だろう。この調査報告、文末に標本と国勢調査の属性比較がつけられている一方、p値を振り回したりしないなど、さすがに日銀、手堅いまとめぶりである。授業で紹介しよう。

ただ、1点引っかかったところがある。それは「はじめに」の一文で、「この調査は、日本銀行が別途行っている『企業短期経済観測調査(短観)』のような統計調査とは異なり、生活者の意識や行動を大まかに聴取する一種の世論調査です」。んん? 統計調査と世論調査は異なるものなのか?

一応専門家の端くれである私の理解では、このタイプの調査は「(社会)意識調査」と呼ぶべきで「一種の世論調査」でもないが、それ以上に、意識調査も世論調査も統計学に基づいて行われている以上統計調査だと思うのである。統計学に基づくとは、1つには個別の事実ではなく、複数の多様な事実の集合全体の分布と、それを要約する平均や比率などの統計量を分析の対象とすることと、もう1つにはランダムサンプリングによる標本を分析して母集団の統計量の統計的推測(推定や検定)を行うことをいうのだと思う。

では、なぜ日銀は「異なる」というのだろうか。政府(日銀は言うまでもなく政府ではないが・・・笑)の統計調査の元締めたる、総務省統計局のサイトをのぞいてみると、「統計調査には、意見・意識など、事実に該当しない項目を調査する世論調査などは含まれません」と書いてある。意見や意識は事実ではない、だって。それは総務省の「個人的」見解でしょう。念のため統計法をのぞいてみると、やはりそんな定義はどこにもない、というか統計法は統計を政策形成という目的から定義するので、事実とは何か、なんて哲学的議論にはいっさい踏み込んでいない。省みれば「日銀短観」、あれは事実ですか。企業の担当者に景気の予測を聞いているが、予測は事実ですか。私は社会学者なので、「思念された意味」の1つである予測も当然事実ですが。

統計法の番人である統計委員会には偉い社会学者の先生が2人も参加されているので、こうしたことは単に私の迷妄で、議論にもならない基礎知識なのかもしれない。ああ、もうこんな世界は飽き飽きだ。早く社会調査法の担当降りたいな。

 

 

中筋 直哉 について

法政大学社会学部教授。1966年神戸市生まれ。
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統計調査って何?:日銀生活意識調査をめぐって への1件のフィードバック

  1. 中筋 直哉 のコメント:

    も一つ、何だかな~ということを書いておくと、昔「政府統計」と言ったのを今は「公的統計」と言うが、ソレハナゼカトタズネタラ、統計を担う部署の一部が独法化して政府じゃなくなったから、だそうである。アホらしくて、やってられん。

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