失敗した移民の記録について:JICA海外移住資料館をゼミでオンライン見学

今日は学部のゼミでJICA横浜の海外移住資料館のオンライン見学。最近実地で見学していたがコロナ禍でできなくなり、今秋も中止したが、館からのご提案でZoomを使って展示案内と解説を聞けることになった。実にありがたい。

ボランティアの方の解説が終わった後の質問タイム。ゼミ生から実によい質問が2つも出た。私が教えたんじゃありません。彼女ら彼らの素の力です。そのうち1つを紹介すると、「(先に移民した男に写真だけで嫁いだ)『写真花嫁』が現地で不仲になってしまったらどうなったのでしょう」。これは二層の意味でよい質問だ。表層では解説がなかったように、そうした記録はあまり知られていないから。解説の方は「私の聞いた限りでは、時代もあって多少の不満はガマンして添い遂げた方が多かったようです」。その通りだろう。つまり成功者、生存者だけが語り得、不成功者と死者は語り得ない。

深層ではこの資料館の限界を突いているから。元々国策の移民送り出し機関を起源に持つJICAには移民の苦労は展示し得ても、移民の失敗、失敗した移民は展示し得ない。だから南洋群島も満蒙もここにはない。イノウエ上院議員はいても冒険ダン吉はいない。

そう思いながら彼の質問を聞いていて、私はハッと思い出した。あるよ、それを書いた本が。中野卓の『口述の生活史』。ああこんちくしょう中野の野郎、敵わねえなあ。「それはもう私がやりましたよ」。遠い昔、自信たっぷりの笑顔で私に答えた中野先生の顔が目に浮かぶ。

https://www.jica.go.jp/jomm/index.html

中筋 直哉 について

法政大学社会学部教授。1966年神戸市生まれ。
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