服従しない心理:ミルグラムへ実験の偏見を考える

午後、親しい同僚とチャットでミルグラム実験の話をした。ミルグラム実験はアイヒマン実験とも呼ばれ、その著書『服従の心理』の名の通り、大多数の人間が残虐な行為も権威の下では行えることを示したことで知られる。しかし『服従の心理』を読むと、被験者に応募しながら実験内容を拒否して去った人や、実験途中で良心の呵責に耐えかねて離脱した人が相当数いたことを正確に記録している。であるのに一般には、誰もが権威に従って極悪人になる証拠とされることが圧倒的に多い。たまたま必要があって読み直していた鈴木宏昭『認知バイアス』(2020,講談社ブルーバックス)もそうで、「いや、あなたがバイアスでしょう」と笑ってしまった。

専門家ではないので間違っているかもしれないが、ミルグラムは確かに仮説としては「服従の心理」を実証しようとし、実証したのだろう。しかし同時に「服従しない良心」の存在も明らかにしたのだ。実験が暴力的でスキャンダラスであることは間違いない。しかし、にもかかわらずレジリエントな良心がそのなかに存在したこと、ミルグラムがそれから目を背けていないことを、後世の私たちは正しく認識した方がいいと思う。

S.ミルグラム、たしかユダヤ系ポーランド移民2世で、イタリア移民2世のP.ジンバルドーとはニューヨークのハイスクールでクラスメート。ミルグラムはこの実験で名声と裏腹に出世を失ったが、二番煎じの監獄実験でジンバルドーはアメリカ心理学会会長まで成り上がった。ウエスト・サイド・ストーリーやストリート・コーナー・ソサエティを地で行く実話。

ちなみにこの実験にアイヒマン実験の名をつけたのは、先生のG.オルポート。本人じゃないよ。

中筋 直哉 について

法政大学社会学部教授。1966年神戸市生まれ。
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