学者ばかあ~

尊敬する職場の同僚から、あるとき「中筋さんは、編集者になった方がよかったかもね」と言われたことがある。たくさんの著書があり、編集者との付き合いの多いその同僚からそういわれたのは、非常にショックだった。同僚はきっと自分では気づかない才能があると賞めてくれたのだろうし、私も編集者が学者より格下だと思っているわけではない。しかしたしかに痛いところを突かれた感じがしたのだ。あなたは学者向きではないと言われた感じがしたのだ。さて、春くらいからH.G.ウェルズの小説が気になって、『解放された世界』や『宇宙戦争』や『タイムマシン』を読んでいた。するとウェルズ論の本が出版され、読むと生誕150年と書いてあった。また梅雨頃からW.シェークスピアが気になって、これまであらすじしか知らなかった『オセロー』や『ハムレット』を読んでいた。するとシェークスピアの百科事典が翻訳されて、読むと没後400年と書いてあった。すごく先見の明があるというわけではないが、風を読む勘がちょっとあるかもしれないと思う。同僚がそこに気づいたかどうか分からないが、もし編集者になっていたら、そうした勘で仕事をしていたかもしれないなとは思う。だが、私は自分のそうしたところをあまり買っていない。私にはもっと大切な才能があって、それは好きなことを調べていると世間の評判も、寝食も忘れてしまうところだ。だから、学者になれて本当によかったなと思っている。黒澤明監督の映画『どですかでん』のはじめの方で、「電車ばか」の六ちゃんが運河の土手の道を一心に空想の電車を運転していくのを、対岸の子どもたちが「電車ばかあ~」とはやし立て、石を投げるシーンがある。私は自分を六ちゃんに重ねあわせて、ちょっと泣けてしまう。

中筋 直哉 について

法政大学社会学部教授。1966年神戸市生まれ。
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